新型コロナウィルスに魂を・・・

新型コロナウィルスが世界を席巻したのはあっという間の出来事であった。年明けに世の中がこのような状況になるとは想像だに出来なかった。昨年末に中国では、水面下でコロナウィルスが広がりつつあったようであるが、日本でその存在を多くの人が知り、恐怖を感じ始めたのは、ダイヤモンド・プリンセス号が横浜ふ頭に到着した頃からではないであろうか。それでも、私を含め多くの人が、これまでにも恐れられたエボラウィルスやSARSウィルス程度の想像でしかなかったのではないであろうか。

年が明け、早くも5ヶ月が過ぎようとしている。この間に、世の中の生活スタイルも、望む・望まないにかかわらず一気に変貌を遂げている。スライド出勤、テレワーク、WEBミーティングなどが浸透し、ソーシャルディスタンス、ウエブ飲み会、ネットのお取り寄せなどの新しい生活様式が取り入れられている。世の中を変えるのは大変な事であると思っていたが、この100ナノメートルの1センチの10万分の1でしかない小さなウィルスが世界をあっという間に変えてしまったのである。

ところがである。中大規模木造に目を向けると、中大規模木造を世の中に浸透させようと20年以上も前からもがき苦しんでいるが、その変化は遅々として進まない。変わらないことに嘆き、変わってしまうことに恐れを感じる、無常の世界をさ迷っているようだ。唯一世の中に浸透して来ているのが「非住宅木造」という言葉である。「非住宅木造」が注目されてきた背景には、ひとつは、SDGsに代表されるように、世の中が、自然環境を守り、地球環境を守り、人を守ることへの意識の高まりにより、大企業による中大規模・高層木造建築物への取組がはじまってきた。もうひとつは、住宅着工が落ち込むことが予想される中で、対策として浮上してきたのが非住宅分野の中大規模木造への取組である。非住宅木造が注目され、中大規模木造の広がりに期待感はあるが、どう取り組めばよいか解らないという方が世の中の大勢なのだと思う。これまでも中大規模木造は水面下では浸透していた。しかも数十年もの間。時間を掛け、労力をかけ、お金を掛ければ他の大型建築物のように、木造でも建つのである。しかし、今取り組むべき優先課題は、大規模ではなく、中規模の非住宅木造(3階建て・1000m2以下)を、鉄骨造の建物と同じように、安全で、手間が掛からず、安く建てられるかだと思う。

この中大規模木造建築を取り巻く遅々として進まないうつ病状態を治療するには、3つのワクチンが必要だと思う。ひとつ目のワクチンは、木造3階建ての規模でも、安心して使ってもらえるように、しっかりとした木造の構造設計ワクチンだ。住宅分野から算入される方がどうしても陥ってしまう病としては、非住宅木造の3階建てでも木造3階建て住宅にちょっと毛の生えたような感覚と捉えてしまうことだ。非住宅と住宅では一つの部屋大きさも違うし、設計で考慮する積載荷重も違ってくる。なので、住宅での構造のように、4号特例や、仕様規定の考えだけでは安全は担保できず、知恵と手間をかける必要がある。この一番大事な木質構造設計ワクチンをないがしろにしてしまうところがある。もう一つのワクチンは、非住宅木造に投与する、なるべくコストの掛からない、流通材料、一般工法を学ぶことである。住宅規模では想定されていなかった大きな力が掛かったり、ロングスパンに対応した対策が必要になったり、使用する素材、工法も変わってくる。3つ目は、中大規模向けの加工を知ること。住宅規模では一般のPC工場に頼めば問題なく対応してくれる。しかし、6mを超えるような木質構造材の梁や柱を加工するには、一般のPC工場では対応できない。大きな部材や長い部材がどこで、どのような形状であれば加工できるかを知る必要がある。中大規模木造を取り巻くうつ病対策には、ステップ1としては、この3つのワクチンを効果的に投与すれば退治できると考えている。これまでの中大規模木造では、変わった形状であったり、変わった構造形式であったり、大型木造だからなのか少し凝った建物を建てたくなる傾向があるようだ。しかし、中大規模木造を広く浸透さえる為には、躯体としては、矩形のシンプルな形状様式で、当たり前に建てられるシンプルな構造様式を考えるべきだと思う。お金と手間を掛けてもよいような建物は、次のステップとして考えたらよいのだと思う。先ずはステップ1の対策を取り、安全で安価な中規模木造建築物を世の中に浸透させたいと思う。その為の活動を木構造テラスではしっかりと微力ながら取り組んでいこうと考えている。遅々として広まらない中大規模木造を思うと、このような時期に不謹慎だと思うが、中大規模木造建築が世の中に急速に蔓延するようコロナウィルスに魂でも売り、驚異の感染力を手に入れたいと妄想してしまう今日この頃である。

 

                                                                                                                 2020年5月29日

                                                                                                   木構造テラス理事 内野吉信