木構造テラスの起源

「なぜ木構造テラスが設立されたのだろうか?」このコラムを書くにあたり、そんなことを思い返している。大規模木造ブームの最終期に私は大手集成材メーカーで大規模木造の設計・施工の実務に携わり、「木造でもこんなことが実現できるんだ」ということを肌感覚で学んだ。木造の持つ可能性を広く社会で活用するためには、コストのハードルを下げる必要がある。逆を返せばコストのハードルを下げないと社会の役に立たない。大規模木造建築のノウハウを、住宅生産インフラであるプレカットに載せることができる接合金物の開発が出来れば、中規模木造くらいまでならコストの問題を解決できるはずだと考え、接合金物メーカーに転職し、誰でも利用できる中規模木造対応接合金物を製品化した。

CADで線一本、一本をチクチク描きながら制作金物の設計をやっていたことを考えると、製品化した金物は開発した本人が感動するほど簡単に様々な形態の木造フレームの設計が可能であった。コストのハードルもかなり下がる。これで「みんなが使える木質構造」が出来たと確信したのが6年前であった。しかし、どんなに優れた製品があってもそれを活用する構造設計者がいないと役に立たない。そんな当たり前のことに気づいたのは、物が出来てからだった。

「自分が出来ることを、みんなが出来ることに!」

建物を実現するためには、材料、加工、接合金物、構造計算ソフト、法規、等々、実に幅広い知識が必要となる。非住宅の分野において木質構造の構造設計体系はS造やRC造のそれに比べて、まだまだ未熟であり、構造的な常識が社会の中で共有できていない。こういった状況で木質構造の構造設計に新たにチャレンジするのは、かなり怖い。では、何があったら少しは怖くなくなるのだろう?それは「聞ける人」がいることではないだろうか。そんなことを業界の色々な人たちとの会話のする中から木構造テラスの原型が浮かび上がってきた。誰かが支配する会でもなければ、誰かに利益誘導するための会でもなく、純粋に木質構造の設計情報を共有する「場(テラス)」で様々な立場の人が情報交換できる。会員にそんな風に感じてもらえる活動を目指している。

木構造テラスが設立されて4年目となる今年も色々な取り組みを計画していたが、新型コロナウィルスの影響で、いつスクールが開催できるか不透明な状況である。しかし、これを言い訳に何もしない訳にはいかない。

ということで、WEBセミナー(ウェビナーと呼ぶらしい)の開催を模索しています。上手くいけば、木構造テラスの新しい情報提供の形の一つになるかもしれません。ご期待ください。

代表理事 實成 康治